月光ゲーム 有栖川有栖 

 

有栖川 有栖 / 東京創元社(1994/07)
Amazonランキング:21,518位
Amazonおすすめ度:


夏合宿のために矢吹山へやってきた英都大学推理小説研究会のメンバー。
江神二郎、望月周平、織田光次郎、有栖川有栖の4人は矢吹山の噴火により、キャンプ場に閉じ込められてしまいます。ちょうど居合せた他大学の2つのグループとともに。陸の孤島と化したキャンプ場でおこる連続殺人。殺人鬼と化したのは一体誰なのか?殺人現場に残された「Y」の文字の意味とは?

有栖川有栖氏のデビュー作です。
名探偵火村英生が活躍するのが「作家アリスシリーズ」ならこちらは「学生アリスシリーズ」と言われています。

陸の孤島。
ダイイングメッセージ。
読者への挑戦状。

どれをとっても本格です。
これを本格といわずとして一体何をそう呼べば良いのかというぐらいには本格です。
サブタイトルには「Yの悲劇’88」と書かれ、氏がクイーンになみなみならぬ尊敬の念を抱いていることが判ります。

探偵役は推理小説研究会部長の江神二郎。
彼は落ち着いた推理で、事態を解決へと導きます。

もちろん推理も良いのですが、この作品のメインは推理小説研究会のメンバーですから、そこかしこでミステリ談義を繰り広げてくれます。
たわいもなく好きなことを好きなだけ論じていられる時間。
無性にノスタルジックな気持ちにさせられます。
推理小説をお互いに論じる相手はなかなか身近にいないものです。
今はパソコン、ネットという文明の利器のおかげで全国にいるミステリファンと談義できちゃいますけどね。

有栖川氏の文章がロマンティックなのは根底に流れる思いやりの心が美しいからだと思います。
自分の意見だけを押し付けるのではない、人を思いやって行動できる、そういう人間をうまく描けてるからロマンティックな感じを受けるのではないでしょうか。
殺人などという血なまぐさい舞台であるから、なお一層それが際立つのだと思います。

学生アリスと作家アリスはそれぞれがお互いの話をかいているというメビウス状態の二人です。
学生アリスは探偵火村の活躍する作家アリスシリーズ。
作家アリスは探偵江神の活躍する学生アリスシリーズ。
を書いていると言う設定です。

学生アリスシリーズは全5作という話ですが、今だ3作でストップしています。
4作目はいつ出るのよ〜。
学生アリスは青春真っ只中ですから、彼の恋愛模様などもあり、作家アリスより甘酸っぱい感じにしあがってます。
本格、ことに新本格を語るのならこの1冊を読まずして語れません。
ぜひぜひ一読のほどを!