ドッペルゲンガー宮 霧舎巧 

 



名探偵を自称する鳴海雄一郎、未来を読む力が少しある森咲江、どんな鍵でも開けることが出来て建築にも詳しい大前田丈、「あかずの扉研究会」の会長にして名探偵後動悟、飛び級制度により18歳にして大学3年生の由井広美、そして文章の記述者である二浪の末ようやく大学生になった二本松翔。
二本松翔はなし崩し的に「あかずの扉研究会」に入会するが、その後メンバーで人を探して訪れた流氷館にてそこに招待されているはずの人々が消失する事件に遭遇する。

この作家さんは20世紀最後の新本格派の新人だそうです。話は本格です。
ペンネームを島田荘司氏に付けてもらったと言うエピソードの持ち主だからか、島田荘司氏へのオマージュが見える作品です。
舞台は「流氷館」
これは島田氏の御手洗シリーズ「斜め屋敷の犯罪」の舞台と同じ名前です。立っている場所は異なりますが。

トリック等々はまったく異なりますが、この流氷館のなかでも連続殺人が起こります。
いわゆる「館モノ」ですね。
流氷館に閉じ込められた人の中には名探偵鳴海雄一郎も。
閉じ込められた人の姿は見えず、「あかずの扉研究会」のメンバーは仲間を助けるため必死に探します。
しかし、やはり彼らの探す流氷館にはだれもいないのです。彼らと警察がとほうにくれる中、流氷館の中では殺人が進行していきます。

やがて明らかになるとほうもないトリック。
実際にそれが可能かどうかはともかくとして、本格にふさわしいストーリー展開と推理でした。

この作品は先述のとおり探偵役は2人です。
2人だけ分かり合って進んでいったりする場面もあるので、普通探偵役は一人である推理小説において特殊な設定ではないでしょうか?
二本松翔(カケル)は見事なワトソン役を演じてくれています。

文章はカケルの一人称ですすみます。
島田氏へのオマージュはありますが、文体は異なりますし、全体から受ける印象もかなり異なります。
鮮やかに謎を解いてはいますが、そこに至る経緯はかなりゴタゴタした感じがします。
どたばたした感じというか。
そのどたばた感が学生らしい感じといえばそうかもしれないです。
しかしちょっとカケルの個性が他に比べて薄いかな?

本筋には関係ないですが、カケルと由井広美はちょっと良い感じになって、微妙な関係、よくいう友達以上恋人未満のような関係になります。
なのに、カケルは彼女のことをユイって呼ぶんですよね。
ユイってカタカナで書かれちゃうとまるで名前のようだからいいような感じもするけど、普通良い感じになった女の子を苗字で呼び捨てってことはあまりないんじゃないでしょうか?
そこがどうしても納得いかなくて・・・(苦笑)

トリック及びそれまでの話の組み立て方なんかはとっても上手ですよ。ちょっとどたばたしますが。
でも青春路線ではない。むしろ揃いも揃って老成してるかもしれないです。

この作品は綾辻氏の「館シリーズ」愛読者と二階堂黎人氏の「二階堂蘭子シリーズ」の愛読者にお薦めします。