樽 F・W・クロフツ

 

F.W.クロフツ, 大久保 康雄 / 東京創元社(1988/01)
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ロンドンの波止場に到着した汽船の積荷の樽の中から金貨と人の手が現れた。ところが、捜査陣が到着する前に、件の樽は忽然と姿を消してしまったのだ!樽の行方を追って、ドーヴァー海峡を挟み、ロンドン警視庁とパリ警視庁の刑事による精力的な活動が開始される。本書はアリバイ捜査の醍醐味を満喫させるクロフツの処女作であり、アリバイものの原点ともなった路標的名作。

本格推理の傑作です。舞台はイギリスとフランスです。
まずはイギリスの港に中身が「彫刻」と記された樽が届きます。しかし壊れた樽の中から金貨と女性の死体が!
見つけた従業員が上司に判断を仰ごうとしていた矢先、一人の男がその樽を受け取りにきます。そこで、その男とともに本社におもむきますが、その男は会社から消え、そして樽も見張っていたにもかかわらずなくなってしまいます。
警察の追跡の結果、その男を突き止めますが、彼フェリックスは警官に次のような話をします。「フランスの友人と富くじを共同購入してそれが当選したので送ると友人から手紙がきた。しかしその友人はさらに他の友人とフェリックスがあて先も宛名も違う樽を受け取ることが出来るか?という賭けをしてしまった。だから、フェリックスには知恵を絞って、その樽を自分の手に入れて欲しい、ということが書かれていたので自分は樽を手に入れるべくダマしたりいろいろ手をつくしたのだ」と。しかし中を改めるとやはり女性の死体が入っていたのです。
スコットランドヤードのバーンリー警部はその謎を追ってフランスに飛びます。
そしてかなり特徴のある樽の出所である、運送業者を見つけます。死体のはいっていた樽は確かに彫刻を入れてそこで荷造りされ、出荷されるまで見張りがいたということがわかるのです。
では一体いつ死体と彫刻がいれかわったのか。
謎を追っていくうちにフランス、イギリスの間を行き交った樽は他にも2つあることがわかります。
一体それらは事件とどういう関わりがあるのか。
事態は二転三転します。

非常に緻密に練られた本格推理です。
樽には確かに彫刻が詰められていたにもかかわらず、届いたときには死体が入っていた、という入れ替えトリックは素晴らしいです。

一体いつ?
誰が?
どのように?

疑問はつきません。

これと似たような状況の日本の本格推理として巨匠鮎川哲哉の鬼貫警部シリーズ「黒いトランク」があります。こちらもぜひ読んでいただきたいです。

舞台もフランス、イギリスをめまぐるしく移動し、ちょっとわからなくなるかもしれません。
時間に余裕のあるときにじっくりと読んで欲しい1冊です。通勤途中とか細切れで読むには向いていないように思います。
休日の読書にオススメです。