鬼流殺生祭 貫井徳郎 

 

貫井 徳郎 / 講談社(1998/08)
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時は維新の騒擾未だおさまらぬ明詞7年。
帝都東京で怪異な事件が発生した。
霜柱に閉ざされた武家屋敷で、留学帰りの青年軍人が刺し殺されたのだ。
その友人で公家の三男坊、九条惟親は行きがかり上、事件の解決を依頼された。
調査を開始する九条の前に、謎はより深淵なる様相を明らかにする。
犯行はいかにしてなされたのか?
そして秘密裏に行われた奇妙な宗教儀礼は何を意味するのか?
困惑する九条は変わり者の友人朱芳慶尚に助言を求めるが・・・。
誰が、どのように、なぜ、犯行をおこなったのか?
ミステリの三大興味をすべて満たす貫井流本格ミステリ。

時代設定は『明詞』
明治じゃないとこが、自由にキャラを動かすにあたってのポイントだったのかなぁ。
九条が体験し、途中まで探偵役なんですけど、真の探偵はその友人朱芳です。
彼は元相模藩藩主で現神奈川県令の子息であり、望めば十分な待遇を得られたにもかかわらず、引きこもり書物を読み漁る変わり者。
どうやら医学の心得もある様子です。
現在は病弱で九条が赴く5回に1回は面会できないと言う状態。
彼は完全なる安楽椅子探偵です。
最後の最後に外に出ますが、それは推理を披露するためで調査に赴くわけじゃないです。
九条の立場は、公家でしかも父親が今で言う警視総監みたいなものでお偉いさんの息子と言うことで警察の内部情報も刑事さんから結構漏らしてもらってます。
だからこその円滑な話の運びです。
つまり情報は出し惜しまれることなく、どんどん提供されていきます。
ただラストでこの事件のポイントとなる情報だけは九条に対して(つまり読者に対しても)出し惜しみされてしまいますが・・・。

密室殺人です。
季節は冬ですから、雪と霜で閉ざされた密室です。
足跡はなく内部のものも何の音も聞いておらず、更には外部からの侵入も目撃者によって否定される。
犯人をぼんやりと推測することは可能です。
個人的には霧生家に伝わる変わった因習(血縁関係で無いと結婚してはダメ)や葬式とは別に行われる独自の儀式の辺りをもう少しおどろおどろしく描きこんで欲しかったかなぁ。
系統的には、金田一耕助とか京極堂とかの怪奇な感じですが・・・少し軽い。
それは多分九条が被害者の友人でありながら、殺害の瞬間には存在していないことが殺害現場の緊張感、緊迫感を感じさせないからかもしれません。
九条朱芳のやり取りは少し京極堂関口のやりとりを彷彿とさせます。
全体的な印象としてはクリスティーのある作品を思い起こさせますが・・・それは言っちゃネタばれになるので内緒です♪

本格ものですが、それに加えてあちこちに貫井氏の遊び心が見えます。
わりと楽に読める本だと思うので、いかがでしょうか?