銀のいす C・S・ルイス 

 

C.S.ルイス, 瀬田 貞二 / 岩波書店(2000/06)
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願いの言葉を唱えて別世界に入った女生徒ジルは、行方不明のナルニアの王子を探すことを命じられ、友達のユースチスや沼人の泥足にがえもんといっしょに、北へ北へとつらい旅をかさねます。

ジルは学校ではいじめられっこで、前作「朝びらき丸 東の海へ」で初めてナルニアにやってきたユースチスとは同級生。
ジルが泣いているところへユースチスは居合せ、追いかけてくるいじめっこから逃れるために塀のドアを開けると、ナルニアなのでした。
しかし、ナルニアでは以前ユースチスが来た時から70年も経過し、若かったカスピアン王も老人になってしまっていました。
カスピアン王の息子リリアン王子は、10年も前から行方不明で、そのリリアン王子の捜索をアスランジルユースチスは命じられるのです。
二人は「いつも最悪の事態ばかりを考えている」沼人の泥足にがえもんと共に北の山を越え、遠く巨人の国を通り地下の国へ王子を助けにでかけます。

ジルユースチスはそれまで同級生といってもさほど仲が良かったわけではないので、道中さかんにケンカをします。
この年頃の男の子と女の子なら当然ですね。
前作までは、そういうギスギスした空気になった時に皆を諭したりするのは大抵ルーシィの役割でしたが、今回はジルユースチスしかこちらの世界からはナルニアへ行ってません。
ケンカの仲裁役は、泥足にがえもんが担います。
彼はいつも最悪の事態ばかりを考えています。
それにいつも謙虚にもほどがあるほど、へりくだって自分のことや身の回りのことをいいます。
なので、ふかふかのベッドを指して「さぶくてかたいでしょうからお気に召さないでしょう」とかいいます。
彼が「二人がケンカするのはもちろん分かっていた」なんていうと二人はケンカをやめるのです(笑)
見透かされたようなのは楽しくないものですからね。

彼のようになんでも考えた最悪の事態を口に出して言っていては周りに不快な思いをさせるでしょうし、謙虚さも度をすぎればうっとおしいことでしょう。
しかし、その考えていることは冷静である、事態をちゃんと分析できる、いきなり変な事態になったとしても慌てずに行動できる、ということに繋がると思います。
ものごとの良い面だけを見ていても行けないし、悪い面だけでもダメだということでしょうか?
その証拠に、にがえもんのおかげで道中のジルユースチスの二人がどれだけ助けられたことか!
悪いことも踏まえて物事を考えなくては正しい道は導きだせないのです。

そしてクライマックスでは、勇気というものは敵に立ち向かっていく時だけではなく、戦っている人を待っている時にも必要であると教えてくれます。

目に見えるものだけが大事なのではなく、見えないものも世界を形作っている大事なものなんですよね。
それに気付くか否かが、私達の人間性を左右するかもしれません。