御手洗潔の挨拶 島田荘司 

 

島田 荘司 / 講談社(1991/07)
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嵐の夜、マンションの十一階から姿を消した男が、十三分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。しかし全力疾走しても辿り着けない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。男は殺されるために謎の移動をしたのか?
奇想天外とみえるトリックを秘めた4つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。

御手洗潔シリーズの短編集です。
どれも読みやすく秀逸なトリックで書かれています。
『数字錠』
『占星術殺人事件』のあと、御手洗石岡は同居のための準備をしていた。
そこへ竹越刑事が現れ、事件の謎を解いて欲しいと依頼する。
ある電飾会社の社長が殺された。
登山ナイフで刺殺され、争った様子もない。
容疑者は2人。どちらも社長に深く怨みを抱いている。
しかし、警察にはどうしても手錠をはめることはできない。
それは殺された状況が密室だったからだ。
その部屋には内外から鍵がかかっており、通用口のドアの外側には数字錠がかけられていた。
鍵のかかったドアを開けられた者はなく、数字錠の番号を知っていたのは殺された社長だけだった・・・。
御手洗の優しい心遣いが感じられるミステリです。
ちょっと切ないラストですね。

『疾走する死者』
隈能美堂巧。通称タック
彼の視点で描かれる短編。
タックは島田氏の『嘘でもいいから殺人事件』と『嘘でもいいから誘拐事件』(若干コメディ)の登場人物です。
彼がサックスを吹いている縁で、嵐の中ジャズ好きの集まりに出かける。
余興として手品を楽しんだ後、チック・コリアなどを演奏している最中、部屋は停電に。
部屋の持ち主の夫人が自分のネックレスが盗まれたという。
直後、部屋から走り出ていく人影。
停電で見えぬ中、皆必死に追いかけるが行き止まりで、犯人とおぼしき久保という人物はそこから飛び降りたかのように見えた。
しかし、下を覗いても死体はない。
見間違いだったかと一同が思っていたところ警察の訪問を受ける。
久保が線路に飛びこみ自殺をした、と。
短編ながらあざやかなトリック。
奇想天外なトリックにあなたも驚くことでしょう。

『紫電改研究保存会』
あるバーで上司に不思議な体験を語る関根という男。
彼は以前、尾崎という男と出会った。
尾崎は『紫電改』という戦闘機の保存会をしているという。
ある事故のことでやんわりとした脅迫めいたことをいい、それを不問に臥すかわりに、封筒の宛名書きをして欲しいと頼む。
関根は紫電改研究保存会の事務所に行き作業をし、数時間の作業で解放された。
それから10日後行って見ると、事務所はもぬけの殻で、関根の元には寄付金に対する感謝状が送られてきたと言う。
関根の体験したことはなんだったのか?
7年前の謎に満ちた事件を、バーに居合せた御手洗が瞬時に解く。

『ギリシャの犬』
モナコで御手洗石岡が出会った青葉と言う人物の妹が馬車道の二人のもとへやってくる。
家の隣のたこ焼きやが店ごとなくなったという。
そして、彼女は目が見えないが、彼女のかわいがっていた盲導犬はたこ焼きやの泥棒に毒を飲まされて殺されてしまった。
無類の犬好きで「犬となら結婚してもいい」という御手洗は、一転して事件を引き受けることにする。
たこ焼きやの窃盗犯は、なぞの記号が羅列された紙を落としていった。
翌日婦人の家を訪ねると警察が。
彼女の甥が何者かに誘拐されたというのだ。
御手洗は誘拐犯の裏をかき、少年を無事助け出すことができるのか?

どの作品も素晴らしいトリックですね。
和製シャーロックホームズといってもいい御手洗潔の活躍が堪能できます。
本のタイトルもシチュエーションも全て島田氏がホームズを意識して書かれたのだなということが感じられます。
短編とは言いつつも読み応えはたっぷりです。
御手洗シリーズを読み始めるには適度な分量だと思います。