天使が開けた密室 谷原秋桜子

 

谷原 秋桜子 / 東京創元社(2006/11/30)
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行方不明の父親を捜すため、倉西美波はアルバイトに励んでいる。そのバイト先で高額の借金を負うハメになり困惑していたところ、「寝ているだけで一晩五千円」というバイトが舞い込んだ。喜び勇んで引き受けたら殺人事件に巻きこまれて・・・・・・。怖がりだけど、一途で健気な美波が奮闘する、ライトな本格ミステリ。期待のシリーズ第一弾!短編「たった、二十九分の誘拐」も収録。

「ライトノベルコーナーに創元推理?」と思い手に取った作品です。
表紙のイラストもメルヘンチックでかわいいしタイトルもいい感じだし、かなりライトなものを想像していましたが、いい意味で期待を裏切ってくれました。
ちゃんと本格ミステリになっています。
もちろんライトですがライト過ぎるわけではないし、キャラも面白い。

主人公は5年前からスペインへ撮影旅行へ出かけたきり行方不明になった父親を捜しにいくため、アルバイトをしまくる15歳の女子高生・倉西美波。
彼女にはクラスメイトの親友が2人います。
長身で日本人離れした顔立ちなのに言葉遣いから性格まで江戸っ子の親友・立花直海。
白い肌に長く伸ばした黒髪、先祖は平安までさかのぼれるという京都の公家の出、ゆったりお嬢様・西園寺かのこ。
そして美波の天敵、隣にすむ大学生・藤代修矢。
顔は古代ギリシア彫刻のモデルのよう、性格は最悪。
中学の担任の息子で修矢と同じ大学生・野々垣武志。
こちらは顔も体も熊のようでみんなから「武熊さん」と呼ばれています。

この作品、探偵役は修矢で、美波ではありません。
美波はとかく臆病で怖がりで泣き虫で善良でだまされやすくお人よし。
「寝ているだけで一晩五千円」なんて明らかにあやしいバイトを武熊さんに紹介されて夜中にアルバイト。
しかも可憐な女子高生が父親を捜すために危なげなバイトをしているというのに、バイト先でも散々な扱いを受けます。
もちろんバイト先以外でも、なぜか扱いが悪い。
最初読んでいて「なんという世知辛い設定なのさ!美波こんなにいい子なのにかわいそうだ!」と思っちゃいましたもん(笑)
まぁですから、事件にまきこまれしまいには犯人扱いされても泣いているだけという・・・京極堂シリーズの関口巽の女子高生版ってかんじでしょうか(笑)
もともと「富士見ミステリー文庫」から2001年に刊行されていた「激アルバイター・美波の事件簿 天使が開けた密室」を加筆訂正されたもののようで、最初はもっとティーン向けの文章だったんじゃないかな、と思います。
前のタイトルは内容とあってないですね。なにさ、激アルバイターって・・・そこまでバイタリティあふれた感じじゃないよぅ。
今のふんわりした装丁とタイトルがマッチしてると思います。
創元推理になってよかったねぇ(笑)

タイトルも良く考えられていて、物理的な密室、心理的な密室、どちらも天使が開けてくれます。
途中でいろんな推理がでて飽きさせません。
気軽によめるのでぜひどうぞ。